同じ瞳の色の彼女が教えてくれた事
「私は、アナです。日本人大好きです」
艶々ストレートの黒髪に同じ瞳の色を持つ
可愛い女の子が私にそう言った。
15年前の夏、タイのチェンマイからバンコクまで一人旅をしていた時、バンコク市内で
迷子になった私を助けてくれたタイの女の子だ。
「POCKY」のポスターが貼ってある日本グッズを売るお店で彼女は働いていた。
灼熱のバンコクで、私は地図を片手に
目的地を探していた。
どんなに探してもわからず、
途方に暮れていた時に日本グッズの店を見つけ
滑り込む様に助けをお願いした。
その対応をしてくれたのが、アナだった。
彼女は、とても好意的に場所を説明してくれて、日本のグッズに触れ合える ショップで
働く事がとてもうれしいと教えてくれた。
日本の事を色々聞かれた後、
彼女はお店の外にまで出て
目的地までの道を説明してくれた。
当時はスマホも持っておらず
簡単には分からない。
そんな私を見かね彼女は、歩いて5分の
目的地まで連れて行ってくれた。
その優しさに感動してお礼を言う。
すると、彼女は一人旅の私をかわいそうに
思ったのか
「今夜の夕食を一緒に食べましょう」
と夕食を誘ってくれた。
アナの仕事が終わる頃、
私達はショップで待ち合わせした。
彼女の彼も合流してから、私をローカルの
市場のような場所に連れて行ってくれた。
決して綺麗とは言えないその場所は、
タイ語しか通じない屋台に近い食堂が
20ほど集まる地元民だけの憩いの場所だった。
「日本からよくタイに来てくれました!
とても嬉しいです」
と言って、ローカルフードの夕食を
ご馳走してくれた。
フードも外国人向けのレストランより
ぱっとした味ではなかったが
アナ達の温かい思いが伝わり
その夕食がとてもおいしかった覚えがある。
「ほんの少し前に知り合ったばかりの私に
どうしてこんなに優しくしてくれるの?
私もお礼に何かしたい」
と私、するとアナは、
「私は、何も要りません。でももし、
日本に帰ってタイ人が困っていたら
その時は彼らを助けてあげて下さい」
と、同じ色の瞳で私の目をじっと見ながらと
優しい笑顔で囁いた。
バンコク最終日の日中に一人参加で
水上マーケットツアーに行った。
私は、同じ船のアメリカ人カップルと
すぐに親しくなり彼らにその夜の
夕食を誘われた。
その日は、最後にアナたちと夕飯を
食べる約束していたので
「タイの友人も同席していいですか?」
と確認しアメリカ・タイ・日本の3国籍全員 で夕ご飯を食べることになった。
アメリカ人カップルが予約した店は、
とても素敵で料理もサービスも素晴らしかった。
私は、ローカルレストランのお礼にと
アナ達を招待するつもりで誘っていたが
アナ達は明らかに緊張し笑顔がひきつっていた。
日本人である私には、出逢った時から
心を開きとてもフレンドリーだったのに
突然借りてきた猫みたいになってしまった。
普段はいく事のない観光用レストランに、
話したこともないアメリカ人に緊張したのか
何を聞いても作り笑顔で言葉なしに答える。
自分と肌の色が違う人達と食事をする事に
私は慣れていたが きっとアナ達には
そんな経験がなかったのだろうか。
自分と同じ髪の色、肌の色は何も
言わなくても安心感をもたらす。
サンフランシスコに住んでいた時
住民の30%がアジア人という環境に
どれだけ私自身が心癒されていたのかを
思い出した。
悪気はなかったが配慮に欠けていた
かもしれないと反省したことを覚えている。
アナ達は、緊張して殆ど最後までアメリカ人夫妻とあまり話さなかったが、 気のいいアメリカ人カップルが気にした様子はなかった。
そればかりか
「現地の人と話しができた貴重な経験をしたので全員の分を払わせて欲しい」
と笑顔で夕食をご馳走してくれた。
全員が全員、完全に打ち解け合えた訳では
なかったけれど その夕食会の事を
とてもよく覚えている
きっとそれぞれの立場でみんながお互いに
思いやりをもって接していた不器用だけど
優しい時間からだったからだと思う。
どこにいても誰といても親切な
気持ちは心を動かす。
"いつも誰かに何かをしてあげる人"
"いつも何かをしてもらう人"
"差し出す人"
"受け取る人"
色々いる。
アナが私に言ってくれた
「タイの人を助けてあげて」
という言葉とその表情を今でも
鮮明に覚えているのは、
見知らぬ誰かの事を思いやれる
高貴な魂を見た瞬間だったからだろうか。
”考えて出る言葉”
”心から飛び出す言葉”
あの日満面の笑みでアナが
私に躊躇なく伝えてくれた言葉は、
きっと後者だったのだろうと思う。
差し出す事が多い人の手の中は、
いつも空になってしまう様に見えるけれど、
それは同時に新しい物を掴む手でもある。
躊躇なくその手を差し出せるという事は、
無限に何かを掴む事でもあるのかもしれない。
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